
昔の人々は、人間は自然界の一部であり、切り離せない存在だと考えていました。
健康を保つためには、外の世界である自然との調和を図ることはもちろん、内側にある臓腑や器官ともバランスを取る必要があると捉えていたのです。
五行とは、木・火・土・金・水という五つの要素を通して、自然と人の関係を読み解く古代中国の世界観です。それは単なる理論ではなく、生活に溶け込んだ“自然の法則”。ストレスを感じたときに酸っぱいものを欲するように、私たちは自然と身体の調和を取り戻す知恵を、日々の中で無意識に働かせています。
この記事では、五行の基本概念と、東洋医学におけるその役割、そして現代の暮らしにどう活かせるかを紐解いていきます。
万物は5つの要素から成り立っている

古代中国の人々は、自然界に存在するすべてのものが「木・火・土・金・水」という五つの要素に分類できると考えました。これが、五行論という世界観です。
🌳木:植物が枝葉を伸ばすように、外へ、上へと広がる力。「成長」「上昇」「発散」の性質をもつもの。
🔥火:炎が立ち上るように、熱とともに上昇する力。「温熱」「活動」「明るさ」の性質をもつもの。
🌾土:種をまき、育て、収穫するように、万物を生み育てる力。「生化」「受容」の性質をもつもの。
🪙金:鉱石が精練されて金属になるように、変化と収束の力。「清潔」「粛降」「収斂」の性質をもつもの。
💧水:水が潤し、静かに下へ流れるように、冷やし、蓄える力。「寒涼」「滋潤」「下降」の性質をもつもの。
木・火・土・金・水という五つの要素は、自然界の現象だけでなく、私たちの身体の働きや感情の動き、季節の変化にも深く関わっています。五行論は、東洋医学の根本にある考え方であり、臓腑の機能や感情のバランス、さらには食養生や生活習慣の調整にも活かされています。
木の仲間には、肝・目・春・酸味・怒りなどが含まれます。これは、春に怒りっぽくなる、目が疲れやすくなるといった身体の変化が、自然のめぐりと響き合っていることを示しています。
五行色体表
体の部位や症状、自然現象などを五行にあてはめてグループ分けしたものを五行色体表といいます。
横の列が同じグループとなります。
| 五行 | 五臓 | 五腑 | 五主 | 五竅 | 五情 | 五色 | 五季 | 五味 |
| 木 | 肝 | 胆 | 筋 | 目 | 怒 | 青 | 春 | 酸 |
| 火 | 心 | 小腸 | 血脈 | 舌 | 喜 | 赤 | 夏 | 苦 |
| 土 | 脾 | 胃 | 肌肉 | 口 | 思 | 黄 | 長夏 | 甘 |
| 金 | 肺 | 大腸 | 皮 | 鼻 | 悲 | 白 | 秋 | 辛 |
| 水 | 腎 | 膀胱 | 骨 | 耳 | 恐 | 黒 | 冬 | 鹹 |
例えば、「金」の行を横に読んでいくと、肺・大腸・鼻・悲しみ・秋・乾燥・辛味などが並びます。これらはすべて、「金」の性質を帯びた仲間たちです。 五臓では肺、六腑では大腸が「金」に対応し、症状が現れやすいのは鼻や皮膚。秋になると肺の働きが活発になりやすく、乾燥を嫌う肺は、弱ると辛味を欲する傾向があります。
このように、臓腑・感情・季節・気候・味覚はそれぞれが独立しているのではなく、「金」という一つの性質のもとで響き合い、連動しています。五行論では、こうした関係性を通して、身体の状態や感情の動きを自然のめぐりと照らし合わせて理解していきます。
この五行の関係性は、漢方や中医学の世界では、診断や治療、そして薬膳の組み立てにも活用されています。
たとえば、目の不調が見られたとき──目は「木」の仲間に属しているので、「肝」の働きが弱っている可能性が考えられます。さらに、同じ木の仲間である「筋」や「爪」にも症状が出ているかもしれませんし、「イライラしやすい」「怒りっぽい」といった感情の変化を自覚していることもあります。
こうしたつながりをもとに、身体の状態や感情の動き、季節との関係を読み解きながら、より的確なケアの方法を探ることができます。そしてこの五行の対応表は、薬膳を組み立てる際にもとても役立ちます。
たとえば、肝のケアが必要なときには、木の性質をもつ食材──酸味のあるものや、春の気を帯びたもの──を選びます。梅干し、しそ、セロリ、春菊などは、肝の気を巡らせ、滞りをやさしくほどいてくれる食材です。イライラしやすい時期に、こうした食材を取り入れることで、心と身体のバランスを整える助けになります。
五行は、身体と自然の響き合いを読み解くための道しるべなのです。
🔄五行のめぐり──相生と相剋の関係
五行の世界では、木・火・土・金・水の五つの要素それぞれが、他の要素を“助けたり”“制したり”しながら、自然のバランスを保っています。 この関係には二つの流れがあります。

🌱相生(そうせい)──互いに助け合う関係
• 木は火を生み(木が燃えて火になる)
• 火は土を生み(火が燃え尽きて灰=土になる)
• 土は金を生み(土の中から鉱石が生まれる)
• 金は水を生み(金属が冷えて水を生じると考える)
• 水は木を生み(水が植物を育てる)
この流れは、五行が“助け合い、育て合う”循環の関係です。たとえば、肝(木)が弱っているとき、腎(水)を補うことで木を支えることができます。
⚔️相剋(そうこく)──制し合う関係
• 木は土を制する(根が土を割って広がる)
• 土は水を制する(土が水を吸収する)
• 水は火を制する(水が火を消す)
• 火は金を制する(火が金属を溶かす)
• 金は木を制する(金属の刃が木を切る)
この流れは、五行が“抑え合い、調整し合う”関係です。たとえば、火(心)が過剰に高ぶっているとき、水(腎)を補うことで火を鎮めることができます。
五行を暮らしに活かす──食・感情・季節のケア
五行論をうまく活用すると、漢方薬の選び方や薬膳の食材選びにとても役立ちます。
たとえば、消化機能が落ちて、皮膚に湿疹が出ているような場合──これは「脾(土)」の働きが弱っているサインかもしれません。
五行では、「土(脾)」が「金(肺)」を育てる関係にあるため、脾の不調が肺に影響を及ぼすことがあります。そして、肺と皮膚は同じ「金」のグループに属しているため、肺の弱りが皮膚のトラブルとして現れることもあるのです。
湿疹が出るとき、胃腸の疲れを見直してみると意外な気づきがあるかもしれません。
このように、症状が出ている場所だけを見るのではなく、五行のめぐりを読み解くことで、根本的な原因に気づくことができます。薬膳では、脾を補う食材──かぼちゃ、山芋、なつめなど──を選びながら、肺や皮膚のケアにもつながるような組み立てが可能になります。 五行のつながりを紐解き、症状の背景にある“めぐり”を感じることで、より深いケアができるようになります。
まとめ
五行論は、自然のめぐりと身体の響き合いを読み解くための知恵です。分類や巡りの関係を知ることで、症状の背景にある偏りに気づき、食材や感情ケアを通して整えることができます。
この記事では、五行の基本的な構造と応用の入り口をご紹介しました。具体的な症状や感情の偏りに対して、どのようなケアや薬膳が役立つのか──それぞれの五行に対応した養生法は、別ページにて詳しくご紹介していく予定です。 どうぞ、あなた自身の身体と心の声に耳を澄ませながら、木・火・土・金・水のそれぞれのページで養生のヒントを見つけてみてください。







