
秋は「乾燥」と「冷え」が重なる季節
秋になると空気が乾燥し、気温も徐々に下がっていきます。この環境の変化は、体内の水分バランスや血流、消化機能に影響を与え、肌や腸にさまざまな不調を引き起こす要因となります。漢方では、秋は「肺」の季節とされ、肺と関連する器官(鼻・皮膚・大腸)に不調が現れやすくなると考えられています。肺は呼吸だけでなく、水分代謝にも関与しており、乾燥によって肺の働きが弱まると、皮膚や腸の潤いが不足しやすくなります。
【肺】と秋の養生 ― 五行論から読み解く、やさしい漢方理論と薬膳セルフケア
乾燥と冷えが引き起こす体内の変化
秋の乾燥は、体内の水分を奪うだけでなく、気温の低下によって血流が滞りやすくなり、腸の蠕動運動が低下します。これにより、排便のリズムが乱れ、便秘につながることがあります。また、冷えによって「脾」の機能が低下すると、消化吸収の力が弱まり、水分の運搬や吸収がうまくいかなくなります。その結果、むくみや肌の乾燥、便秘などの症状が現れやすくなります。特に高齢者や冷えやすい体質の人は、こうした変化に敏感に反応する傾向があります。
空気の乾燥→体内の水分が奪われる
気温の低下→血流や腸の働きが低下
消化機能のおとろえ→消化吸収低下、水分の吸収の低下→むくみ、乾燥
秋に現れやすい具体的な不調
実際に秋に多く見られる不調としては、肌のかさつきやかゆみ、鼻の乾燥や鼻血、便秘、硬便、排便困難などが挙げられます。これらは一見別々の症状に見えますが、漢方的にはすべて「肺」の機能低下や水分代謝の乱れと関連しています。肌の乾燥は外気の影響だけでなく、体内の潤い不足が原因であることが多く、腸の不調も水分不足や血流の停滞によって引き起こされます。こうした症状は、季節の変化に対する体の適応力が低下しているサインとも言えます。
日常生活でできる予防とケア

これらの不調に対しては、日常生活の中でできる予防とケアが重要です。まず、水分補給はこまめに行い、冷たい飲み物ではなく常温または温かいものを選ぶようにします。次に、腸を潤す食材として、食物繊維や油分を含むごま、豆類、根菜などを意識的に取り入れるとよいでしょう。また、腹部や腰を冷やさないようにし、血流を保つために軽い運動やストレッチを習慣化することも効果的です。これらの対策は、肌や腸だけでなく、全身の巡りを整えることにもつながります。
秋の養生に役立つ素材の特徴
秋の乾燥や冷えに備えるために、特に飲み物に取り入れやすい素材は、手軽に摂取できることから体調管理に役立てることができます。以下に挙げる素材は、古くから食経験があり、季節の変化に応じた体調維持を目的として親しまれてきました。ここでは、それぞれの素材の一般的な特徴や伝統的な使われ方をご紹介します。
- 決明子(けつめいし):マメ科のエビスグサの種子で、香ばしい風味があり、古くからお茶として親しまれています。ハブ茶とも呼ばれます。すっきりとした飲み口で、季節の変わり目に好まれる素材です。
- 麻子仁(ましにん):アサ科の植物、ゴマに似た油分を含む種子で、しっとりとした質感が特徴です。腸を潤すため、乾燥性の便秘に用いられます。
- おから茶:大豆の加工過程で得られるおからを焙煎したもの。食物繊維を含み、香ばしく飲みやすいのが特徴です。大豆イソフラボンが更年期障害の予防や症状をやわらげるのに役立ちます。
- 蒲公英(たんぽぽ):根や葉が古くから茶材として利用されてきた植物で、香ばしくすっきりとした風味が特徴です。喉の乾燥や、炎症を冷ますために用いられてきました。
- 金銀花(きんぎんか):スイカズラの花を乾燥させたもので、淡い香りがあり、解毒や炎症を鎮めるとして伝統的に季節の養生に用いられてきました。
- 明日葉(あしたば):明日葉はセリ科の植物で、今日若芽をつんでも明日にはまた新しい芽が出るといわれるほど青々とした香りと力強い生命力をもちます。血の巡りを良くし、日々の食事や茶としても活用されることがあります。
- 山査子(さんざし):バラ科の果実で、ほのかな酸味と甘みがあり、果実茶として親しまれています。消化を助ける作用があることから、食後のひとときに用いられることもあります。
古代ギリシャの哲人アリストテレスは「老化とは乾燥への推移である」と語ったといいます。体内の水分量は、代謝や血流、自律神経のバランスにも関わり、不要なものの排出(いわゆる“解毒”)を助ける働きも担っています。髪のツヤや肌の潤いといった印象にも、こうした内側の巡りが影響してくるのです。季節の乾きに寄り添うように、温かいお茶をこまめにいただくことは、からだの内側にやさしく水分を届ける習慣になります。
今回ご紹介した素材は、お茶というかたちで無理なく、自然に取り入れることができます。季節の移ろいに寄り添いながら、やさしく自分を整えるひとときを、リラックスしてお楽しみください。







